AIに参考資料を渡すとき、多い方が正確に答えてくれる気がします。関係ありそうな文書を全部添えて、あとは判断してもらう。よくある作りです。
今回は計測しました。必要な事実を1件だけ含む文書群を作り、置く位置と件数を変えています。結果を先に言うと、必要な1件に対して34倍の量を一緒に送っていました。
AIに何を渡すかを決める作業です。指示・参考資料・履歴・ツール定義の4つを、量と順序まで含めて設計します。
コンテキスト設計で扱うのは、AIに何を渡すかです。プロンプトの文言を練る作業だと思われがちですが、実際には渡す情報の選択と配置まで含みます。
エージェントに渡る内容は、大きく4つに分かれます。役割を伝える指示、参考にさせたい資料、これまでの履歴、そして使えるツールの定義です。
このうち資料と履歴は放っておくと膨らみます。検索結果を全部添える、履歴を全部積む、という作りにすると、量が制御できなくなります。
Anthropicは、多くのチームを見てきた経験として、成功している実装は複雑な枠組みではなく単純で組み合わせやすい形を使っていると述べています。
コンテキストについても同じことが言えます。凝った検索や要約の仕組みを組む前に、渡す件数を絞るだけで改善する場合が少なくありません。
扱える文脈の長さは年々伸びています。ただし長く渡せるようになったことと、長く渡した方がよいことは別です。量が増えれば費用も応答時間も増えます。次の節で、その量を実際に測ります。
the most successful implementations use simple, composable patterns rather than complex frameworks原文Anthropic Engineering「Building effective agents」 この内容の有効期限2027-02-17
必要な事実を1件だけ含む文書群を作り、置く位置と件数を変えて計測しました。絞り込むだけで978字を削減できます。
コンテキスト設計の効果を確かめるため、実際に測りました。返品期限という必要な事実1件を、無関係な参考資料の中に埋めています。
測ったのは、渡す文脈の総文字数と、必要な事実が先頭から何文字目に現れるかです。
必要な事実1件を、文書群のどこに置くかで「読み始めてから何文字目」が変わる 文書数 総文字数 必要な事実の位置 先頭からの割合 5件 162字 先頭 7字目 4% 5件 162字 末尾 139字目 86% 30件 1008字 先頭 7字目 1% 30件 1008字 末尾 985字目 98% 30件 1008字 中央 509字目 50% --- 必要なものだけ渡した場合 --- 1件 30字 先頭 7字目 23% 30件・末尾に置いた場合と比べた文脈量の差: 34倍 削減できる文字数: 978字
差が出ました。34倍です。必要な情報は30文字しかないのに、それを見つけてもらうために1,008文字を送っていることになります。
もう1つ見てほしいのが位置です。30件の場合、必要な事実が先頭なら1%の地点、末尾なら98%の地点に現れます。同じ量を渡していても、探す距離が違います。
長い文脈では、中ほどに置かれた情報が見落とされやすいことが知られています。上の表で中央に置いた場合は50%の地点でした。ここが最も不利な位置になります。
位置を工夫するより、そもそも渡す件数を減らす方が確実です。1件だけ渡せば、位置の問題自体が消えます。
渡す件数を絞ると、文脈量が桁で変わる。位置の工夫より効果が大きい。
we recommend finding the simplest solution possible, and only increasing complexity when needed原文Anthropic Engineering「Building effective agents」 この内容の有効期限2027-02-17
判断の基準は、答えを出すのに必要かどうかです。あると便利そうなものは渡しません。件数の上限を先に決めます。
コンテキスト設計で迷うのは、境界をどこに引くかです。渡しすぎると埋もれ、渡さなすぎると答えられません。
実務で効くのは、渡す件数の上限を決めておくことです。上位3件まで、履歴は直近5往復まで、といった形で決めます。
上限があると、増えたときに何かを落とす判断が発生します。この判断を先送りにすると、いつのまにか全部渡す構成に戻ります。
渡すかどうかは「答えに要るか」で決める。あると便利そうは渡さない理由になる。
Anthropicの推奨は、可能な限り単純な解から始めることでした。場合によってはエージェント的なシステム自体を作らないという選択も含む、とされています。文脈の設計も同じで、複雑な仕組みを入れる前に件数を絞ることから始まります。
渡す量は費用に直結します。詳しくはエージェントのコスト制御の記事で扱っています。構成そのものを単純にする話は決定的ワークフローの記事にあります。
This might mean not building agentic systems at all.原文Anthropic Engineering「Building effective agents」 この内容の有効期限2027-02-17
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