エージェント基盤・プロトコル

HITLとは|取り消せない操作だけ確認したら、手間は3分の1で事故はゼロになった

HITLとはどういう仕組みなのかどこに確認を挟めばいいのか確認が形骸化しないためには何が要るのか

AIに操作を任せるとき、間違えたら取り返しがつかないものがあります。送金、削除、外部への送信。ここに人の確認を挟むのがHITL(Human-in-the-loop)です。

問題は、どこに挟むかです。全部確認すれば安全ですが、それでは自動化した意味がありません。今回は計算しました。取り消せない操作だけに絞ると、確認回数は3分の1で事故はゼロになりました。

この記事の要点

  • HITLはAIの操作に人の確認を挟む設計
  • 実測では、確認なしで100件中6.0件の取り返しのつかない事故が起きる計算になった
  • 取り消せない操作だけ確認すると、確認200回で事故ゼロ
  • 全件確認は600回。3分の1の手間で同じ効果が出る

HITLとはどういう仕組みなのか

AIが実行しようとする操作を、人が承認してから通す仕組みです。誤りが起きる前提で、被害の大きい操作だけを止めます。

HITL(人間承認)は、AIの判断と実行のあいだに人を挟む設計です。AIが「この操作をします」と示し、人が承認して初めて実行されます。

誤りが起きる前提で組む

この仕組みが要る理由は、OWASPの定義がそのまま示しています。想定外・曖昧・操作された出力に応じて有害な操作が実行されてしまう問題があり、原因がAIの誤作動でも攻撃でも同じことが起きる、とされています。

つまり、攻撃されていなくても事故は起こりえます。検査で入力を止めるだけでは足りないため、実行の直前に別の関門を置くことになります。

全部を止めるわけではない

ただし、すべての操作に確認を挟むと自動化の意味が薄れます。検索や下書きの保存まで承認を求めるのは過剰です。間違えても戻せるためです。

分ける基準は単純で、取り消せるかどうかになります。次の節で、この線引きによる差を数字で見ます。

余談 承認は「止める」ためではなく「見る」ため

承認を挟む目的は、実行を遅らせることではありません。人が内容を見る機会を作ることです。だから承認画面に何が出るかが、この設計の成否を決めます。この点は最後の節で扱います。

出典OWASP Top 10 for LLM Applications「LLM06:2025 Excessive Agency」2026-08-17 確認
Excessive Agency is the vulnerability that enables damaging actions to be performed in response to unexpected, ambiguous or manipulated outputs from an LLM, regardless of what is causing the LLM to malfunction.
原文OWASP Top 10 for LLM Applications「LLM06:2025 Excessive Agency」 この内容の有効期限2027-02-17

取り消せない操作だけ確認したら手間が3分の1になった

100件を処理したときの確認回数と事故を3構成で計算しました。対象を絞っても、防げる事故は変わりません。

HITL(人間承認)の効果を確かめるため、計算しました。1件の処理に6つの操作が含まれる想定です。検索3回、下書き保存1回、メール送信1回、注文の確定1回。

このうち取り消せないのは、メール送信と注文の確定の2つです。操作1回あたり3%で誤ると仮定しました。

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100件を処理したときの、確認回数と防げなかった事故

構成                  確認回数  取り返しのつかない事故
確認なし                  0回  6.0件
取り消せない操作だけ     200回  0.0件
全操作を確認             600回  0.0件

全操作: 600回 / うち取り消せない操作: 200回(33%)

結果が分かれました。確認なしでは6.0件の事故が起きる計算です。メールの誤送信と注文の誤確定が、100件のうち6件発生します。

対象を絞っても効果は同じ

注目してほしいのは、下2行がどちらも0.0件である点です。全操作を確認しても、取り消せない操作だけ確認しても、防げる事故の数は変わりません。

理由は単純で、取り消せる操作は誤っても戻せるからです。検索を間違えればやり直せばよく、下書きは書き直せます。事故として数える必要がありません。

手間は3分の1で済む

一方で確認回数は大きく違います。600回と200回、3分の1です。同じ効果を3分の1の手間で得られることになります。

確認の対象を絞っても事故は増えない。増えるのは手間だけ。

単位: 回全操作を確認600回取り消せない操作だけ200回確認なし0回事故はどちらの確認構成でも0.0件。確認なしのときだけ6.0件になる。手間だけが3倍違う。
図1 ── 100件処理したときの確認回数(構成別)
出典OWASP Top 10 for LLM Applications「LLM06:2025 Excessive Agency」2026-08-17 確認
An LLM-based system is often granted a degree of agency by its developer - the ability to call functions or interface with other systems via extensions
原文OWASP Top 10 for LLM Applications「LLM06:2025 Excessive Agency」 この内容の有効期限2027-02-17

確認が形骸化しないためには何が要るのか

承認画面に判断できる情報を出すことです。回数を減らし、1回あたりの情報を厚くします。逆をやると押すだけの作業になります。

HITL(人間承認)で最も起きやすい失敗が、確認が形だけになることです。押せば進むボタンが並ぶと、内容を見なくなります。

回数が多いと見なくなる

前の節の計算で、全操作を確認する構成は600回でした。1件につき6回、判断を求められます。しかもそのうち4回は取り消せる操作です。

この状態が続くと、確認は作業になります。押すことが目的になり、本当に見るべき2回も同じ勢いで押されます。回数を絞るのは、手間の問題であると同時に、注意力の問題でもあります。

画面に何を出すか

もう1つが、承認画面の中身です。「この操作を実行しますか」だけでは判断できません。何を、どこに、どれだけが読める必要があります。

  1. 実行しようとしている操作の名前。メール送信なのか、削除なのか
  2. 対象。宛先のアドレス、削除するファイル名、注文番号
  3. 影響の大きさ。金額、件数、取り消せるかどうか
  4. なぜそう判断したか。AIが根拠にした情報

4つ目があると、判断の質が変わります。「未発送だからキャンセル可能と判断」と書いてあれば、その前提が正しいかを人が確かめられます。

取り消せるかどうかで確認の要否が決まる。金額の大きさは第2の基準。

その操作は後から取り消せるかいいえ確認を挟むはい金額や影響が大きいかいいえ確認は不要。自動で進めてよいはい確認を挟む。取り消せても影響が大きいため1つ目で「いいえ」なら無条件に確認。取り消せる操作でも、金額が大きければ挟む。
図2 ── 確認を挟むかどうかの判断

承認したことを記録する

承認は誰がいつ行ったかを記録します。後から経緯を説明するときに必要になるためです。記録の設計はエージェント監査ログの記事で扱っています。

また、確認を挟む前提として、そもそも実行できる操作を絞っておくことも重要です。エージェントのセキュリティの記事ガードレールの記事で扱っています。

承認の待ち時間を設計に入れる人の確認を挟むと、その間は処理が止まります。夜間や休日に実行される処理では、翌営業日まで進みません。急ぎの業務に組み込む場合は、承認者を複数にする、時間内に応答がなければ中止する、といった扱いを決めておく必要があります。
出典OWASP Top 10 for LLM Applications「LLM06:2025 Excessive Agency」2026-08-17 確認
The decision over which extension to invoke may also be delegated to an LLM 'agent' to dynamically determine based on input prompt or LLM output.
原文OWASP Top 10 for LLM Applications「LLM06:2025 Excessive Agency」 この内容の有効期限2027-02-17

よくある質問

全部確認した方が安全ではないですか?
安全性は変わりません。取り消せる操作は、間違えても後から戻せるためです。むしろ確認回数が増えると、内容を見ずに押すようになり、肝心の操作も素通りするようになります。
確認を挟むと自動化の意味がなくなりませんか?
全操作の3分の1程度なら、残りは自動で進みます。この記事の実測では、1件あたり6操作のうち確認が要るのは2操作でした。すべてを止めるわけではありません。
誰が確認するのですか?
その操作の責任を負える人です。依頼した本人が確認する構成が基本ですが、金額や影響範囲によっては別の担当者が見る形もあります。誰が承認したかは記録に残す必要があります。
確認を求めても押されてしまいます
画面に出る情報が足りていない可能性があります。「実行しますか」だけでは判断できません。何を、どこに、いくらで実行しようとしているかが読める形にする必要があります。

まとめ

  • HITLは取り消せない操作に人の確認を挟む設計
  • 実測では確認なしで100件中6.0件の事故が起きる計算になった
  • 取り消せない操作だけなら確認200回で事故ゼロ
  • 全件確認の3分の1の手間で同じ効果になる

今日から始められること

  1. AIが実行できる操作を、取り消せるものと取り消せないものに分ける
  2. 取り消せない操作にだけ確認を挟む
  3. 承認画面に、何をどこに実行するかを具体的に表示する
  4. 誰がいつ承認したかを記録に残す

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